2015年8月21日金曜日

『エリート・スナイパー入門 』パート2 - ジョナサン・クイック

 前回の『エリート・スナイパー入門』の続きです。まだ読んでいない方は是非こちらからご覧ください。

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 戻って来たよ。前回の投稿では、入れたい選手全員書ききれる時間が無かった。恐らく夏休みでダラダラしていると想像しているかもしれないが、息子の夏休みのホッケーのスケジュールは半端じゃない。だが週末にYouTubeでスナイパー5人について宿題をしてきた。ツイッターでリクエストをしてくれてありがとう。キーパーの悪夢である選手たちはこれで全員ではないので、近い将来、パート3を書くことになるかもしれない。


 スティーブン・スタムコス - Steven Stamkos


 オヴェチュキンと良く似ている。彼らは氷上のどこに居てもパックの位置を把握している。彼らがオフェンシブ・ゾーンでシュートを放てば、全てがゴール・チャンスだ。スタムコスはシューティング能力が優れているという事は明白な事実だが、彼のプレーメイキング能力は過小評価されているかもしれない。スナイパーであるだけでなく、キーパーとしては、彼の絶妙なパス数々も注意すべき点だと思う。シュート能力とパス能力、掛け合わせると大きな問題となる。彼のパック・リリースは世界トップクラスだからだ。

 彼がパワープレーで左サイド(キーパーから見て右)でプレーをする。これはキーパーとして最悪と言っても過言ではない状態だ。なぜならそのポジションから、スタムコスはキーパーのショートサイドのブロッカー側にワンタイマーを放つことが出来るから。スタムコスのパック・リリースはNHLの中で最も速いかもしれない―特にワンタイマーでは。ワッフル(ブロッカーの愛称)で反射神経で守り抜くことは不可能に近い。

 ここでは、スタムコスは殆ど全く膝を曲げていない。一つの滑らかなモーションで、パックが素早く放たれる。





 もしスタムコスのパック・リリースを一言で表すとすれば、
効率の良さ』だ。パート①で述べた様に、オヴェチュキンのシュートのパワーの原理は、スティックに掛かる体重と、それによって生まれる物凄い推進力だ。オーヴィはパックを後ろ足元から放つことが出来、スティックも理由の一つだ。オーヴィのスティックは比較的柔らかく、ブレードはすごく曲がっている。オヴェチュキンのシュートは弧を描くが、スタムコスのは違う。彼のスティックは硬く、パックは前方から放たれる。パックがブレードにくっ付いている時間が短ければ短いほど、キーパーがパックの行先を読む時間も短くなる。これは数センチといった小さな違いだが、スタムコスのシュートは素早過ぎて、パックを【押している】ように見える。スタムコスのシュートにはヒントが無い。シュートを打つ前に劇的に膝を曲げることも無ければ、手幅を広げる事も無い。全て勘のみだ。







 彼がほぼ片足で立ちながらリスター(リスト・シュート)で肩口を決める。素早く、スムーズなモーションだ。



アンゼ・コピター - Anze Kopitar


 コピは、NHLの中のツーウェイ・センター(攻防共に優れているセンター)の中でベストの選手だと思う。コピターのプレーを見て思う事は、プレーに参加している率が非常に高い。大きな選手があんなに気楽に見える(一生懸命に見えない)選手はそう居ない。彼は全てを簡単に見せてしまう。その為ある程度過小評価を受けているのも理解が出来る。人々はアイスホッケーを語る際、プレーにおけるバトルの激しさやスピードについて語る。NHL選手が語るときは(少なくとも正直に語るときは)全力を出す瞬間という事にはタイミングがある、と語るに違いない。ルーニー・テューンズのロード・ランナーの様に足の回転が速い選手でも30秒程でバテてしまい、ベンチに戻っては次のシフトの為に息を整え続けなければならなくなり、この選手はチームにとってプラスにはならないだろう。60分の試合の中では、正しいポジションに付いてエネルギーを保ち、ここぞといった時にジェットをオンだ。そうでもしなければ、3ピリにはもうクタクタだ。アンゼはこの切り替えがもの凄く上手だ。彼のホッケーI.Q.は桁外れだ。

 スムーズの選手を見てみたいかい?






 ボード際といえば、ヤロミール・ヤーガーだ。彼はキープアウェイを20年遊び続け、未だに誰も彼からパックを奪う方法を見つけ出していない。だが、ヤーガー相手に最もパックに近付ける選手がいるとすれば、コピだろう。彼は毎試合、相手選手のトップディフェンスマンと相手をしているが、それでも相手に力いっぱい寄しかかり、疲れさせ、自分とチームメイトの為にスペースを作る。アンゼは相手チームに【内容の濃い時間】を与える。相手キーパーを常に構えさせ、相手のセンターをゴールライン付近まで、深いポジションまで引き寄せる。あまりアンゼをハイライト動画で見かけないのもその為だと思う。ハイライトゴールの前の10秒間はアンゼが『汚い仕事』をしているからだ。

 何年前かのナッシュビル戦、完璧とも言えるパワープレーの例がある。コピがボード側で後々ゴールへと繋がるスペースを作り出す。コピをマークした相手ウィンガーは、得点された後、疲労で跪いている様子が伺える。





 何度も言ったように、シュートは動くパックの事では無く、殆どの場合、その他の要素全ての事だ。



ジョン・タバレス - John Tavares


 クロスビーと同じように、タバレスは相手選手を一つの得意分野で相手と差をつける訳ではなく、全てにおいてバランス良く優れている事で、周囲と差をつける。タバレスは相手をディークできる(巻ける)。肩口を決められる。絶妙なパスを出せる。もし何もないとしても、何かを生み出すことが出来る。他の面でもクロスビーと似ている。今まで対戦した選手達の中でも、トップ級に粘り強い選手という点だ。タバレスと同等に高度のスキルを持つ選手の多くは、味方選手が空いているスペースに入っていくまで待ち、パスを出す。タバレスの場合、荒々しいエリアに自分から入って行き、パックを奪い取る。彼のキレイなハイライト・ゴールと同じくらい彼は汚いゴールも決めている。

 タバレスの下半身のパワーは凄まじく、ボード際でチェックを真に受けても、そのチェックの推進力利用してゴールへ向かう。このトロント戦のOTのゴールは、彼の優れた全ての要素の詰め合わせだ。1人目のディフェンスを腕でかわし、2人目のディフェンスを巻き、華麗なるエッジワークでゴール前まで行き、3人目のディフェンダーもかわし、ゴールを決める。






 試合の60分間、ディフェンスのプレッシャーやチェックに耐え、バランスを保ち続ける為にトレーニング室で過ごす時間、そして、3人のディフェンスの位置を把握し、相手を抜く方法を考えられるホッケーI.Q.、これらが彼の偉大さの要素だ。2人目のディフェンスを抜く前に、2つ先のプレーを予測している。彼のディーク(巻き
)は1つの滑らかなモーションで最後にはゴール前に辿り着く。もう一度さっきのシーンを見てほしい。1人目のディフェンスを抜いてから、何度完全なストライドをしただろうか。一回のみだ。



マックス・パシオレッティー - Max Pacioretty


 マックスから連想することは、NHLで一番過小評価されている選手であるという事。過去の3シーズンで彼より多くゴールを決めた選手は3人しかいない。決してパワープレーでの華麗なるゴールではない。彼のゴールのほとんどは、5対5でスペースがあまり無い状態からの得点だ。昨シーズンは10点の勝ち越し点を入れている。マックスが、荒々しいエリアでプレーをする、といった面ではタバレスとよく似ている。今まであまり彼について語る人があまりにも少なくてびっくりしている。彼は本当にいい点取り屋だ。

 マックスと対戦する際は、彼の素早いスナップショットに警戒していなければならない。素早く、且つ強力にパックを放つことが出来てしまうため、事前に狙っている場所を憶測していなければ、防ぐことは出来ない。マックスが他の選手達から独立する理由は、NHLの中でも最高潮の命中力と一貫性だ。小さなスペースを見つけ出すのが誰よりも上手だ。キーパーはネットに深く構えてしまっていたら、ゲームオーバーだ。





 彼の身体を見てわかるだろうか。シュートの前の振りかぶりが無い。大きな推進力の変化がない。パスを簡単に出来るように彼のすぐ前にパックがある。マックスには複数の選択肢があるため、キーパーは固まってしまう。そして重たいシュートが、サークルの先から飛んで来る。キーパーである事が、時々に嫌になる。

(P.S. 残り時間を見てほしい。マックスは大事な場面でも点を取る。)



ジェイミー・ベン / タイラー・セギン - Jamie Benn / Tyler Seguin


 伝統とでも言おうか。このペアに関しては、また省略をさせて貰う。数年前、セギンがスターズにトレードされた時、ウェスタン・コンファレンスのキーパー達はこのニュースを見たとき、『うわ、まじかよ。』と口を揃えて言ったに違いない。ジェイミー・ベンは基本的にオールマイティな選手だ。僕のチームメイト;ドリュー・ダウティーは世界中でトップのディフェンスマンだ。そのドリューがある選手に関して言う事は、他の誰より信用性がある。彼はいつもベンと相手するのは本当にタフだ、と言っている。全てにおいてレベルが高い。彼はスペースを作る、というか勝手にスペースが出来る。ベンはチェックもする、乱闘もする、鋼鉄のようにタフな選手だから、誰も近づこうとしない。彼は誰の事も恐れてはいない。相手チームのスター選手に対する戦略は大抵、「ラフなプレーでラフにさせる」事だが、ベンの場合…やめておいた方がいい。

 ジェイミーが他の選手より優れている一つは、1対1の時にディフェンスをスクリーンにすることだ。自身の長いリーチと素晴らしいパックハンドリングを利用して、シュートをディフェンスの足の間を通して打つ。これはキーパーにとって、リリースを感知するのが難しい。ディフェンスのスケートによってパックが見えなくなる一瞬が、非常に効果的なのだ。

 説明するのは難しいが、幸いインターネット動画という名の奇跡が存在する。




ピエトランジェロ(ディフェンス)はベンが何をしようとしているか解っているため、足を閉じる。が、そんなことは関係ない。ベンはパックを引いて、アングルを変える。ピエトランジェロの身体とスティックをスクリーンと化する。前回の投稿で言ったように、最高のシューターは、最速のシューターという訳ではなく、シュートを放つ瞬間に急激にアングル、リリース・ポイントを変えることが出来る選手である。

 ここにセギンといった、また新しい要素が加わる。セギンがプレーに参入することで、ベンに対し、ズルは出来ない。セギンはスペースに入って、注意を引くのが上手だからだ。セギンがよくやる癖のようなもので、ワンタイムを打つ時、よく膝をつく。オヴェチュキンに似ているが、少し違う。セギンのワンタイムの振りかぶりは短く、平均の半分しかスティックを上げない。パックに全体重が乗るし、素早く放つ。彼は良く、珍しいアングルからゴールを決める。キーパー目線として、あまり見ないリリースの仕方だ。





 セギンは、予想外な事をするのが他の誰より上手だ。さっきも言ったようにどのアングルからシュートを打ってくるかわからない為、60分間ずっと注意を払わなければならない。もう一度言う。セーブの90%は精神によるものだ。ベンとセギンは二人とも素早いパック・リリースを持っているが、最も注意しなければならない点は、二人とも予測不可能であることだ。悪意があるようにさえ思える。彼らに全身全霊、最大火力で攻撃されている時は…【放送禁止用語】

 …まあ、気が高まってきてしまった。もう行かなくちゃ。楽しかった。


 


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 前回の投稿も含めいかがでしたでしょうか。今までセンターによるセンターの分析、ディフェンスによるディフェンスの分析、それからキーパーによるキーパーの分析を期待していましたが、また良い意味で期待が外れキーパーによるスナイパーの分析の記事でした。個人的には大満足の内容でした。

 プレーヤーたちとは別の視点から見るホッケー。彼らにしかわからない『アイスホッケー』があるのかも知れません。



2015年8月1日土曜日

『エリート・スナイパー入門』 - ジョナサン・クイック


 おなじみの、The Players' Tribuneのサイトにやっと入門シリーズのキーパー版が記載されました。今回の記事はLA.キングスのGK;ジョナサン・クイック選手による記事です。




ジョナサン・クイック - Jonathan Quick 


1986年1月21日 生まれ
アメリカ、コネティカット州 出身
身長:185㎝
体重:100㎏

2005年LA.キングスからドラフトされ、大学リーグで2年、
2008年はLA.キングスのアフィリエートチーム、
      AHLのマンチェスター・モナークスでプレー。
2009年から現在までLA.キングス所属。

2011年にはオールスター出場。
2011年と2013年にスタンレーカップ優勝。

2014年にはアメリカ代表に選抜される。

個人では3つのトロフィーを受賞した。



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 このセリフを何度聞いたことがあるだろうか。




「そんなに良いセーブでもないじゃないか。選手がグローブに打っただけじゃないか。」


 素晴らしいセーブをこのセリフで済ませてしまう人に、僕はいつも不快を覚える。僕が就くポジションの魅力がわかっていない証拠だからだ。NHLでは、90%のセーブは、選手がパックを放つ前に既に起きている。キーパーとして、反射神経だけに頼っていれば、すぐにやられてしまう。パックをゴールから守るのに必要なのは、殆ど「直感
と「幾何学だ。パックを所持する選手を見ながら、彼に与えられた選択肢を分析する。そして、彼の足、手、体勢を観察する。打つか?高めか、低めか?パスレーンはどこだ?戦略はなんだ?
 
 全ての要素を足して、一つの選択をしなければならない。即座に脳ミソから、

①.クリーズの前に出て自分を大きく見せてシューティング・レーンを狭くしろ。(シュートに備える)
②.少しズルをして身体の重心をパスを受ける選手の方に向けておけ。(パスに備える)

 と選択肢を与えられる。パックが放たれる前に、僕の仕事は終わった。次の行動を決めたので、後はその選択が合っていた事を願うのみ。

 一つ例をあげよう。これは僕のセーブの中でトップに入るセーブだと思う。




 セーブと反射神経の関係はあまりないと思う。実際、セーブと関係する一つの要素は、僕自身と全く関係ない所にある。もし僕のディフェンス;ドリュー・ダウティーが横になって、クロスのパスを防がなければ、成す術がない。ケイン
の目と腰はゴールに向いていないため、彼はパスをしたがっているのが解る。幸運なことにドリューが助けてくれた。次に、ケインがスケートをゴールに向ける。僕はパッドを重ねてゴールの下半分を塞ぐ。ここでパス・レーンがあれば、もう終わりだ。また幸運なことに、もう一人のディフェンスが逆サイトのウィングをマークしてくれた。最後にケインの重心が移動し、腰が開いたところで高めを狙ってくるのが解る。そして僕はグローブを可能な限り上げて、祈る。
 
 ラッキーと言いたければそれでも構わないが、この1.5秒の間に4つの要素が進行している。何等かの理由で氷上に居る時は時間が遅く過ぎ、体感では7秒程だった気がする。

 NHLのレベルでのアイスホッケーでは、実際に経験してみないと解らない複雑な事が数々ある。エリートなスナイパー達がキーパーにとって、対戦しにくいワケをこの記事を通して説明したいと思う。


Ryan Getzlaf and Corey Perry - ライアン・ゲツラフ と コリー・ペリー

 少しズルをして、この2人をパッケージ・セットとして紹介する。アナハイム・ダックスと言う名を聞いて2つの文字を連想する。"Heavy Minutes" 【直訳すると、
重たい時間」「内容の濃い時間」とでも訳しましょうか。】 アナハイムが攻めている1分は、他のチームの1.5分と準ずる。ずっとゴール裏でプレーをしているからだ。僕は常にポストに付き、構え、警戒心を100%オンにしておくと、3ピリの頃には本当に足にくる。

 ゲツラフとペリーがパックを持っている時の視野の広さにはびっくりする。プレーから背を向けている時でもだ。彼らは即座な決断力と、ディフェンスの間を通すパス力はエリート級だ。大きな身体を使ってゴール裏でキープアウェイをし、僕はポストからポストへと移動を繰り返さなければならない。ディフェンスも疲れてくる。そしてゴール前をと移動し、何回もリバウンドのチャンスを作り、ゴール前に混雑を作り出す。そこでゴールに入らないとしても、この「内容の濃い時間によって、次のセットが出てくる時には疲れ果てている。

 メディアで両チームのパック所持率などが大きく取り上げられ、NHLのロッカーでも重要な参考となっているが、どういう風に所持しているかが重要な点であると思う。1つのチームはアタッキング・ゾーンでとても長い時間パックを所持しているが、特に危険なポジションではない。周囲でパックをサイクルしたり、時にはシュートを打ったりしてきても、特に難しいことはない。一方ゲツラフとペリーの場合、彼らが攻めている毎分毎秒が、脅威となる。




 NHLではみんな、良いシュートを打つが、殆どの選手は、特定な状態である場合でないと、危険性がない。本当にシュートが上手なゲツラフとペリーの様な選手の場合、パックが身体から1.5メートル離れていても、足元にあった場合でさえも、強烈なシュートを放つことが出来る。これによって、キーパーとしての計算が全て崩れる。ベストなシューターは、最速のシューターである訳ではない。ベストなシューターはシュートを放つ瞬間に急激にアングルを変えることが出来る選手である。

 ゲツラフが、パックを身体からとても離れた場所から、足元へ一瞬で移動させるところを見てほしい。ゲツラフ本人からの視点ではなく、パックからの視点が、0.5秒で観点から見えるゴールの空いている場所」が完全に別のものになる。



 これが平均的な選手である場合、僕は「よし、一足で立っているから、バランスは崩れている。シュートはそんなに強くないだろう。」と考える。ゲツラフはハワード(上の写真のGK)が反応する前にゴールを決めた。ハワードの前には、ダックスのもう一人の代表的選手がスクリーンに立っている。(9番のコイブ選手)



Pavel Datsyuk - パベル・ダツック

 ダツックは恐らくNHLで最も欺瞞的(ぎまんてき)なプレーヤーである。彼はパックを所持しながら、パックを隠すことが出来るマジシャンだ。一つは彼の防具にある。彼のブレードはNHLであまり見かけない形をしていて、普通のものより太く作られている。それと彼の素早いリリースと、更に、彼はゴールをあまり見ないのを合わせると、ブレードから放たれるパックを目で追うのは非常に難しい。


 上でも言ったように、90%のセーブはパックが放たれる前に起きている。殆どの選手にはヒントがある。パックがどこにポジションされているか、膝の曲がり方でシュートの準備をしている、殆どの事が起こる前に解る。だが、ダツックの場合は、故意的に騙してくる。彼はアタッキング・ゾーンの45度のボード際で、手、足、目が全てクロスのパスの状態である。99%の選手の場合、憶測通りにクロスのパスが来る。そこでGKは少しズルをしてパス先に目を向ける。そしたら、どういう事だか、いつの間にかパックがゴールに入っている。彼は打ったのだ。そんな所から打つ奴がどこにいる。ダツックが居た。




 ダツックはチェスのプロである。キーパーとして最悪な状況は、パック・キャリアーが多数の選択肢を持っている時だ。ダツックは氷上全体の状態を常に把握していて、幾つかのプレーが生み出せる様なスペースが空くまでパックを持ち続ける。意図的に相手に、シュートをブロックをするか、パスをカットするか、と迷わせる。彼を相手にするには、どちらかを選ばなければならない。どちらか迷っている内に、彼は次のプレーを始めている。彼と相手する際は50-50の賭けだ。


Sidney Crosby - シドニー・クロスビー

 バックハンドのシュートはNHLイチだ。プロの1年目か2年目の時だったと思う。ゴール前のサークルの2本の線から、(壁側)フォアハンドではなく、バックハンドで… 逆側の肩口に入れられた。こんなことは聞いたこともない。100中100止めれるはずである。が、彼はとてつもなく素早くシュートを放ち、パックの軌道はもの凄いもので、彼の両手が頭上に上がるまで僕はゴールに入っていることを知らなかった。

 クロスビーは全てにおいて、非常に優れている。試合の前にロッカーで、対戦するチームのスター選手の2人か3人を、どうやって弱みを握るか、など考える。ホワイトボードの名前を指して「彼は○○に弱い。出来るだけ彼に○○をさせよう。」と言う。クロスビーの場合、○○にあたるものが何一つ無い。彼はオールマイティーで、信じられないような選手だ。





 前に言ったように、全ては幾多の選択肢だ。もしクロスビーがディフェンスを抜いてキーパーと1対1になった場合、もはや平等ではない。彼のブレードはほぼ平ら、真っ直ぐで、手首の恐るべきパワーで、股下を抜かれるか、バックハンドに持っていかれ、肩口だ。(多くの選手は平らなブレードでこれをこなすことは出来ない)時々、彼をテレビで観て、キーパーと1対1になった時、キーパーの前でスティックハンドリングをし、一瞬にして、股下を抜く場面を目にする。一瞬すぎて、パックを少しチョンと触ったくらいにしか見えない。キーパーは反応出来ない。凍ってしまっている。彼相手に無難な賭けなど存在しない。もしバックハンドに持っていかれれば、キーパーはスライドするために踏ん張ってプッシュしなければならない。その時の姿勢は深く、股下がガラ空きになる。残りは言わなくてもわかるだろう。

 クロスビーのノーマークの話のついでにPSの話をする。NHLの中でもシュートアウトが上手な選手たちを見てみると、みんな3つか4つ、凄くいいパターンを持っていて、全てのパターンの始まり方は同じだ。T.J.オーシーを例にあげる。彼は毎回PSでパックを拾う際、同じルートで同じ方向からゴールに向かう。ハンドリングのパターンもほとんど見分けがつかない。そしてある点にたどり着くととこから、
木の枝の様に別れる4つのパターンがある。その点に着いてから憶測をするのは無理だ。何をするかは、やられるまでわからない。キーパーはこの場合、100%反射で守り抜くしか手がない。それはとても難しいことだ。



Alexander Ovechkin - アレクサンダー・オヴェチュキン

 明らかに、彼のシュートは非常に重い。だが、先に憶測不可能というテーマについて、今回はオーヴィ(オヴェチュキン)を例にして書こう。今シーズンホームで彼らと対戦した時、2対1のラッシュがあった。オーヴィはパックを持っていなかった。僕から見て右側に居て、パスをされてはマズい。彼はライトハンドで、ワンタイムには最適なポジションにいた。腰を開いたのを見て、僕は「彼は明らかに危ない。だが彼はバックスケーティングの状態でボードにどんどん近づいている。」と考える。
僕の脳ミソは自然にもうワイドすぎだ。そこからは無理だ。と考えた。そして彼にパスが行き、もう壁から1メートルも離れていない状態だったが、僕は彼を甘く見ていた。方法はわからないが、ワンタイムは完璧、且つ強烈で僕にはチャンスの欠片もなかった。ゴールから離れながら放った彼のワンタイムを見てほしい。




 オーヴィの様な男たちのシュートは本当に強く、野球のバッターみたいだ。パックの残像が写真のフレームのように切れて見える。1フレーム、2フレーム、そして3フレーム目にはもう体に当たっている。反射神経でオーヴィに対してキーパーをするのは無理な事だ。クリーズの先に立って空きを防いでいなければならない。




Jonathan Toews and Patrick Kane - ジョナサン・テイヴス と パトリック・ケイン

 この二人も、セットとして省略させてもらう。ほぼ毎年コンファレンス・ファイナルやスタンレーカップ・ファイナルで彼らを目にするのは偶然な事ではない。ゲツラフとペリーとは違い、この2人は全く別なプレーをするのと同時に、お互いがお互いを完璧に補足し合う。この2人ほど自信に満ち溢れた選手を見たことが無い。どうにかして勝つ、という揺るぎ無い信念を持っているようだ。

 ケインから始めよう。彼は比較的小さな男だが、トップを争うパック・リリースと、ホッケーIQに関して彼は少し過小評価されていると思う。氷上の観察力とディフェンスを読む力はNHLの中でもトップ級だ。彼の様な才能的なスキルを持つ選手の多くは、氷上を徘徊して、チャンスを待つ選手が多いが、ケインは常に氷上を観察していて、プレーの続きを考えている。そして、空いたスペースにヒョコッと現れ、そのチャンスをモノにする。そして、もちろん、彼のハンドリングはとてつもなく上手い。ケインのハンドリングの速さはNHLの中で恐らく1番だ。ほぼ毎試合、ディフェンスが少しポークチェックをサボったのを見逃さず、ディフェンスのトライポッド(スティックと足の3点)の間を彼なハンドリングで抜く。





 ケインの様な選手が出ているときは、キーパーとしては、すぐに注意を置く。プレーが進み続ける間、常にレーダーに入れている。それにテイヴスを加えてしまうと、レベルが変わってしまう。テイヴスは常に動き回っていて、常に働いていて、パックの行先を読める聖なる力を持っている。まるで超能力者だ。彼がどうやって、いつも完璧なときに完璧な場所に居られるのか、特に重要な場面で、説明ができない。

 アナハイムが身体的に「内容の濃い時間
」であれば、シカゴは精神的に内容の濃い時間だ。常にケインとテイヴスに気を付けていなければならなく、ケインがいつの間にかゴール横に立っていたり、テイヴスが周りを見渡さなくてもケインの居場所を把握していたり、猜疑的になってしまう。そしてこれらがホッケーというスポーツを分析する楽しさの醍醐味であると思う。多くの人はホッケーを残忍で粗暴なスポーツであると考えるが(シー・ウェバーのバッティングをアソコに喰らった時は僕もそう思った)、実際、ホッケーは他のスポーツより、より精神的なスポーツである。シカゴは過去6年で3回スタンレーカップを手にした。ケインとテイヴスは世界で一番デカい男たちではないが、彼らはとてもスマートで、精神的に強く、2人が一緒にプレーする際には素晴らしい直観力を互いに持っている。

 シカゴには本当に勝ちたい。早くシーズン始まってくれよ!(ごめんよ、ハニー)