2015年8月21日金曜日

『エリート・スナイパー入門 』パート2 - ジョナサン・クイック

 前回の『エリート・スナイパー入門』の続きです。まだ読んでいない方は是非こちらからご覧ください。

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 戻って来たよ。前回の投稿では、入れたい選手全員書ききれる時間が無かった。恐らく夏休みでダラダラしていると想像しているかもしれないが、息子の夏休みのホッケーのスケジュールは半端じゃない。だが週末にYouTubeでスナイパー5人について宿題をしてきた。ツイッターでリクエストをしてくれてありがとう。キーパーの悪夢である選手たちはこれで全員ではないので、近い将来、パート3を書くことになるかもしれない。


 スティーブン・スタムコス - Steven Stamkos


 オヴェチュキンと良く似ている。彼らは氷上のどこに居てもパックの位置を把握している。彼らがオフェンシブ・ゾーンでシュートを放てば、全てがゴール・チャンスだ。スタムコスはシューティング能力が優れているという事は明白な事実だが、彼のプレーメイキング能力は過小評価されているかもしれない。スナイパーであるだけでなく、キーパーとしては、彼の絶妙なパス数々も注意すべき点だと思う。シュート能力とパス能力、掛け合わせると大きな問題となる。彼のパック・リリースは世界トップクラスだからだ。

 彼がパワープレーで左サイド(キーパーから見て右)でプレーをする。これはキーパーとして最悪と言っても過言ではない状態だ。なぜならそのポジションから、スタムコスはキーパーのショートサイドのブロッカー側にワンタイマーを放つことが出来るから。スタムコスのパック・リリースはNHLの中で最も速いかもしれない―特にワンタイマーでは。ワッフル(ブロッカーの愛称)で反射神経で守り抜くことは不可能に近い。

 ここでは、スタムコスは殆ど全く膝を曲げていない。一つの滑らかなモーションで、パックが素早く放たれる。





 もしスタムコスのパック・リリースを一言で表すとすれば、
効率の良さ』だ。パート①で述べた様に、オヴェチュキンのシュートのパワーの原理は、スティックに掛かる体重と、それによって生まれる物凄い推進力だ。オーヴィはパックを後ろ足元から放つことが出来、スティックも理由の一つだ。オーヴィのスティックは比較的柔らかく、ブレードはすごく曲がっている。オヴェチュキンのシュートは弧を描くが、スタムコスのは違う。彼のスティックは硬く、パックは前方から放たれる。パックがブレードにくっ付いている時間が短ければ短いほど、キーパーがパックの行先を読む時間も短くなる。これは数センチといった小さな違いだが、スタムコスのシュートは素早過ぎて、パックを【押している】ように見える。スタムコスのシュートにはヒントが無い。シュートを打つ前に劇的に膝を曲げることも無ければ、手幅を広げる事も無い。全て勘のみだ。







 彼がほぼ片足で立ちながらリスター(リスト・シュート)で肩口を決める。素早く、スムーズなモーションだ。



アンゼ・コピター - Anze Kopitar


 コピは、NHLの中のツーウェイ・センター(攻防共に優れているセンター)の中でベストの選手だと思う。コピターのプレーを見て思う事は、プレーに参加している率が非常に高い。大きな選手があんなに気楽に見える(一生懸命に見えない)選手はそう居ない。彼は全てを簡単に見せてしまう。その為ある程度過小評価を受けているのも理解が出来る。人々はアイスホッケーを語る際、プレーにおけるバトルの激しさやスピードについて語る。NHL選手が語るときは(少なくとも正直に語るときは)全力を出す瞬間という事にはタイミングがある、と語るに違いない。ルーニー・テューンズのロード・ランナーの様に足の回転が速い選手でも30秒程でバテてしまい、ベンチに戻っては次のシフトの為に息を整え続けなければならなくなり、この選手はチームにとってプラスにはならないだろう。60分の試合の中では、正しいポジションに付いてエネルギーを保ち、ここぞといった時にジェットをオンだ。そうでもしなければ、3ピリにはもうクタクタだ。アンゼはこの切り替えがもの凄く上手だ。彼のホッケーI.Q.は桁外れだ。

 スムーズの選手を見てみたいかい?






 ボード際といえば、ヤロミール・ヤーガーだ。彼はキープアウェイを20年遊び続け、未だに誰も彼からパックを奪う方法を見つけ出していない。だが、ヤーガー相手に最もパックに近付ける選手がいるとすれば、コピだろう。彼は毎試合、相手選手のトップディフェンスマンと相手をしているが、それでも相手に力いっぱい寄しかかり、疲れさせ、自分とチームメイトの為にスペースを作る。アンゼは相手チームに【内容の濃い時間】を与える。相手キーパーを常に構えさせ、相手のセンターをゴールライン付近まで、深いポジションまで引き寄せる。あまりアンゼをハイライト動画で見かけないのもその為だと思う。ハイライトゴールの前の10秒間はアンゼが『汚い仕事』をしているからだ。

 何年前かのナッシュビル戦、完璧とも言えるパワープレーの例がある。コピがボード側で後々ゴールへと繋がるスペースを作り出す。コピをマークした相手ウィンガーは、得点された後、疲労で跪いている様子が伺える。





 何度も言ったように、シュートは動くパックの事では無く、殆どの場合、その他の要素全ての事だ。



ジョン・タバレス - John Tavares


 クロスビーと同じように、タバレスは相手選手を一つの得意分野で相手と差をつける訳ではなく、全てにおいてバランス良く優れている事で、周囲と差をつける。タバレスは相手をディークできる(巻ける)。肩口を決められる。絶妙なパスを出せる。もし何もないとしても、何かを生み出すことが出来る。他の面でもクロスビーと似ている。今まで対戦した選手達の中でも、トップ級に粘り強い選手という点だ。タバレスと同等に高度のスキルを持つ選手の多くは、味方選手が空いているスペースに入っていくまで待ち、パスを出す。タバレスの場合、荒々しいエリアに自分から入って行き、パックを奪い取る。彼のキレイなハイライト・ゴールと同じくらい彼は汚いゴールも決めている。

 タバレスの下半身のパワーは凄まじく、ボード際でチェックを真に受けても、そのチェックの推進力利用してゴールへ向かう。このトロント戦のOTのゴールは、彼の優れた全ての要素の詰め合わせだ。1人目のディフェンスを腕でかわし、2人目のディフェンスを巻き、華麗なるエッジワークでゴール前まで行き、3人目のディフェンダーもかわし、ゴールを決める。






 試合の60分間、ディフェンスのプレッシャーやチェックに耐え、バランスを保ち続ける為にトレーニング室で過ごす時間、そして、3人のディフェンスの位置を把握し、相手を抜く方法を考えられるホッケーI.Q.、これらが彼の偉大さの要素だ。2人目のディフェンスを抜く前に、2つ先のプレーを予測している。彼のディーク(巻き
)は1つの滑らかなモーションで最後にはゴール前に辿り着く。もう一度さっきのシーンを見てほしい。1人目のディフェンスを抜いてから、何度完全なストライドをしただろうか。一回のみだ。



マックス・パシオレッティー - Max Pacioretty


 マックスから連想することは、NHLで一番過小評価されている選手であるという事。過去の3シーズンで彼より多くゴールを決めた選手は3人しかいない。決してパワープレーでの華麗なるゴールではない。彼のゴールのほとんどは、5対5でスペースがあまり無い状態からの得点だ。昨シーズンは10点の勝ち越し点を入れている。マックスが、荒々しいエリアでプレーをする、といった面ではタバレスとよく似ている。今まであまり彼について語る人があまりにも少なくてびっくりしている。彼は本当にいい点取り屋だ。

 マックスと対戦する際は、彼の素早いスナップショットに警戒していなければならない。素早く、且つ強力にパックを放つことが出来てしまうため、事前に狙っている場所を憶測していなければ、防ぐことは出来ない。マックスが他の選手達から独立する理由は、NHLの中でも最高潮の命中力と一貫性だ。小さなスペースを見つけ出すのが誰よりも上手だ。キーパーはネットに深く構えてしまっていたら、ゲームオーバーだ。





 彼の身体を見てわかるだろうか。シュートの前の振りかぶりが無い。大きな推進力の変化がない。パスを簡単に出来るように彼のすぐ前にパックがある。マックスには複数の選択肢があるため、キーパーは固まってしまう。そして重たいシュートが、サークルの先から飛んで来る。キーパーである事が、時々に嫌になる。

(P.S. 残り時間を見てほしい。マックスは大事な場面でも点を取る。)



ジェイミー・ベン / タイラー・セギン - Jamie Benn / Tyler Seguin


 伝統とでも言おうか。このペアに関しては、また省略をさせて貰う。数年前、セギンがスターズにトレードされた時、ウェスタン・コンファレンスのキーパー達はこのニュースを見たとき、『うわ、まじかよ。』と口を揃えて言ったに違いない。ジェイミー・ベンは基本的にオールマイティな選手だ。僕のチームメイト;ドリュー・ダウティーは世界中でトップのディフェンスマンだ。そのドリューがある選手に関して言う事は、他の誰より信用性がある。彼はいつもベンと相手するのは本当にタフだ、と言っている。全てにおいてレベルが高い。彼はスペースを作る、というか勝手にスペースが出来る。ベンはチェックもする、乱闘もする、鋼鉄のようにタフな選手だから、誰も近づこうとしない。彼は誰の事も恐れてはいない。相手チームのスター選手に対する戦略は大抵、「ラフなプレーでラフにさせる」事だが、ベンの場合…やめておいた方がいい。

 ジェイミーが他の選手より優れている一つは、1対1の時にディフェンスをスクリーンにすることだ。自身の長いリーチと素晴らしいパックハンドリングを利用して、シュートをディフェンスの足の間を通して打つ。これはキーパーにとって、リリースを感知するのが難しい。ディフェンスのスケートによってパックが見えなくなる一瞬が、非常に効果的なのだ。

 説明するのは難しいが、幸いインターネット動画という名の奇跡が存在する。




ピエトランジェロ(ディフェンス)はベンが何をしようとしているか解っているため、足を閉じる。が、そんなことは関係ない。ベンはパックを引いて、アングルを変える。ピエトランジェロの身体とスティックをスクリーンと化する。前回の投稿で言ったように、最高のシューターは、最速のシューターという訳ではなく、シュートを放つ瞬間に急激にアングル、リリース・ポイントを変えることが出来る選手である。

 ここにセギンといった、また新しい要素が加わる。セギンがプレーに参入することで、ベンに対し、ズルは出来ない。セギンはスペースに入って、注意を引くのが上手だからだ。セギンがよくやる癖のようなもので、ワンタイムを打つ時、よく膝をつく。オヴェチュキンに似ているが、少し違う。セギンのワンタイムの振りかぶりは短く、平均の半分しかスティックを上げない。パックに全体重が乗るし、素早く放つ。彼は良く、珍しいアングルからゴールを決める。キーパー目線として、あまり見ないリリースの仕方だ。





 セギンは、予想外な事をするのが他の誰より上手だ。さっきも言ったようにどのアングルからシュートを打ってくるかわからない為、60分間ずっと注意を払わなければならない。もう一度言う。セーブの90%は精神によるものだ。ベンとセギンは二人とも素早いパック・リリースを持っているが、最も注意しなければならない点は、二人とも予測不可能であることだ。悪意があるようにさえ思える。彼らに全身全霊、最大火力で攻撃されている時は…【放送禁止用語】

 …まあ、気が高まってきてしまった。もう行かなくちゃ。楽しかった。


 


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 前回の投稿も含めいかがでしたでしょうか。今までセンターによるセンターの分析、ディフェンスによるディフェンスの分析、それからキーパーによるキーパーの分析を期待していましたが、また良い意味で期待が外れキーパーによるスナイパーの分析の記事でした。個人的には大満足の内容でした。

 プレーヤーたちとは別の視点から見るホッケー。彼らにしかわからない『アイスホッケー』があるのかも知れません。



1 件のコメント:

  1. いつもありがとうございます!
    北米からの新鮮な情報が入手でき、
    日本ではホントNHLの情報皆無状態なのでうれしい限り。

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