2015年7月1日水曜日

『乱闘をする理由』- ブランドン・プラスト


 この記事では、欧米アイスホッケーの醍醐味ともいえる、乱闘について。
日本のアイスホッケーでは乱闘になることはありますが、1対1には殆どなりません。欧米アイスホッケーでは日常茶飯事です。
 乱闘をすることにより、ファンを沸かせ、チームを盛り上げます。ただただ怒りのあまりに人を殴っているわけではないし、いつでも乱闘すればいい訳でも無いのです。チームが負けているとき、チームのムードが暗いとき、試合の流れを変えたいとき、大事なチームメイトがやられてしまったとき、色んな理由で、様々な場面で乱闘が起こります。
 
 これはアイスホッケーの伝統であり、誰がなにを言おうと、重要なイベントであり、乱闘をする人は大事な役目を果たしています。アイスホッケーが下手だから、乱闘を担当するわけではなく、彼らは非常に上手です。チームのキャプテンだって乱闘するし、点取り屋でも時には乱闘をします。お互いをリスペクトし合っているからこそ出来る乱闘で、乱闘に美学にも思う人もいるでしょう。(欧米のアイスホッケーファンは殆ど感じていると思う)



ブランドン・プラスト (Brandon Prust)

1984年3月16日生まれ(31歳)
カナダ、オンタリオ州出身

身長:183㎝
体重:88㎏


2004年のドラフトでカルガリー・フレームズに70位で選ばれる。


2002年から2004年まで、OHLのロンドン・ナイツでプレー。
2004年からAHLでプレーをし、2006年にNHLデビュー。
翌年AHLに降格するも、2008年にNHL復帰。

2006年、2008年をカルガリー・フレームズでプレー。
2008年はフェニックスへトレード。
2009年に再びカルガリーへトレードされ、
同年ニューヨークレンジャーズにトレード。
2011年までプレーを続け、2012年にモントリオールと契約。


ホッケー以外の趣味は、ゴルフと野球観戦

叔父はブロードウェイの俳優

高校では多くのスポーツにおいて優秀という賞を2001年に受賞。フットボールで8番だった背番号を今でも付けている。

テレビのアナウンサーと2015年6月に婚約。


 さっそく記事に参りたいと思います。31歳、モントリオール・カナディアンズのブランドン・プラスト選手による記事です。

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 親友の顔面を週何回かのペースで殴ることは、キャリアに驚くべき成果を挙げる。アイスホッケーの*エンフォーサーの場合に限るが。僕がまだ18歳の少年でOHLでプレーしていた頃、大きな悩みを抱えていた。僕はロンドン・ナイツの端役だった。他のみんなの様に上手ではなかったし、乱闘もそう強いわけでも無かった。活躍し、成果を出すには、何かを極めなければいけなかった。
 *エンフォーサーとは、相手に悪さをさせないようにする、いわゆるチームのボディーガード。相手選手が自身のチームのキーパーと接触した時、スター選手が激しいボディーチェックをされたり、うちにそんな事したらタダじゃおかないぞ、と示すように相手選手に乱闘を仕掛ける役目の選手だ。

 始めは、ボディーチェックを極めようと頑張った。問題は、ボディーチェックをした後、毎回、相手の選手達が仕返しにやってくることだ。何度か彼らに「処理」されたあと、僕は親友のクリス・ベインに相談をした。クリスもエンフォーサーだった。

僕は、「なあ、エンフォーサーになろうと思ってる。どうすればいい?」と聞いた。

そして彼に、「まず、何回かやられてみる。そうしたらきっと分かる。」と言われた。

 これは結構適切なアドバイスだった。確かに誰かが乱闘をするのを見たり、本を読んだりするだけでは強くなることは出来ない。実際に、乱闘してみなければいけない。それから毎日練習の後、クリスとグローブを脱いで、リンクの真ん中でちょっとしたスパーリングをするようにした。結果は、読者の想像通りだ。初めはちょっとした遊び感覚で掴み合い、押し合いをしてたが、乱闘の真似をするのはとても難しいことだと、すぐにわかった。僕たちはお互い何回か故意的に殴り合った。クリスには少しでも効いたかどうかはわからない。彼はタフで、頭は石のように固い。

 アイスホッケーファンでない人に、乱闘を知的だと言うと、少々野蛮に聞こえるのは理解できるが、これは路上の一般的な喧嘩とは全く違う。僕たちはスケート靴を履き、少しダボダボなユニフォームを着ている。これには多くの物理学が含まれている。クリスに乱闘について全て教わった。ただ闇雲にパンチをするだけでなく、バランスを保ちながら、テコの原理を理解し、握力なども必要だ。僕は彼に教わった知識をスポンジのように吸収し、多少自らの知識と力で出来るようになってきた。

 だがしかし、僕は干され、シーズンの終わりでジュニアBに送られた。僕は落ち込んだが、元NHLのエンフォーサーであるコーチ;デール・ハンターに、後に僕の人生を大きく変えることになった一言を言った。「チャンスを一回くれ。一回僕を出してくれ。もうベンチにすら戻したく無くなるはずだ。」




 シーズンに入って3試合目、ジュニアAの試合に呼ばれ、それから一試合も逃してない。初めはライト級を相手にし、段々とコツをつかんできた。OHLでの二年目には、ヘビー級と乱闘をするようになっていた。乱闘でNHLに入ったも同然なので、少々偏見も持たれるが、僕には信念がある。NHLを安全なスポーツにするために、乱闘が必要だと。

矛盾するように聞こえるが、説明させてくれ。

 一か月前にアナハイムと試合をしていて、最近のNHLで頻繁に起こりすぎていることが起きてしまった。3ピリでチームのスター選手、マックス・パクシオレッティがパスを出した後、背後からボードにチェックされた。背中を痛め救急車で運ばれたが、審判はペナルティーを取らなかった。確かにルール・ブック通りに行くと、ペナルティーではないかも知れない。

じゃあ、どうすればいい?

 3ピリに入り、2対1のリード。そのシーズン、僕たちは強かった。ウェスタン・コンファレンスのアナハイムは特にライバルである訳ではない。一年に2回ほど対戦するような相手だ。普段、3ピリで点差が狭いと、僕は乱闘はしない。ペナルティーボックスで羞恥な気持ちで座ったたまま、試合終了のブザーを聞きたくないからだ。リンクに出ていたい。だが、マックスは僕たちにとってスター選手で、彼は背後から潰された。

 僕の中の一人は、まだ試合に出ていたい。もう一人は、復習を望んでいる。ベンチで座りながら、「このことを水に流すこともできるが、さっきのようなチェックを見て見ぬふりをしたら、他のチームにどう思われるか。」と考えていた。

 水に流すことは出来なかった。マックスをチェックした相手に向かい、乱闘を仕掛けた。僕はそんなに野次を飛ばす方ではない。まあ、「黙れ」とかは言うが、常に相手をイラつかせたりする為にペラペラ喋ったりはしない。僕はやるときはやる。相手のママについて悪口を言ったりする事に意味がない。物事にはやり方がある。幸い、僕はその試合、乱闘が出来た。相手にも、他のチームにも僕たちのスター選手にあんなことはしたらただじゃ済まないぞ、と証明する事が出来た。
 
 そして、みんなはそれに対して、敬意を払った。エンフォーサー群は、相互に敬意を持っている。敬意を払わない奴らは「ネズミ」と呼ばれている。ネズミは相手に一つも敬意を払わない。相手のスター選手に飛びつき、キーパーとわざと接触する。そして乱闘はしない。タフな男を演じるが、本当のタフな男が来ると、逃げていく。

 ネズミがいると、チームに不利だ。ネズミが乱闘に答えない時、場の空気がもの凄く悪くなる。リンク全体の雰囲気が悪くなる。もし乱闘自体が存在しなければ、ネズミたちは試合中ずっと敵チームのスター選手に理由もなく飛びかかり続けるだろう。ネズミが乱闘を断れば、自身のチームの流れを止めることにもなる。

 1つの乱闘で、みんなが知らない色んな事が起きている。「お前に腹が立っている。乱闘するぞ」という事ではない。時にはそうだが、ほとんどの場合、乱闘には戦略がある。エンフォーサーは本当に賢く、自身のチームが流れに乗っていて、乗り続ける必要があれば乱闘は絶対にしない。時には相手のエンフォーサーにお願いを聞いてもらい、借りを作ってもらう時もある。


 一例をあげると、何ヵ月か前にフィラデルフィアのザック・リナルドと乱闘をした。僕たちのチームは3対0で勝っていた。僕が乱闘する理由など一つもないが、乱闘をした。なぜかと言うと、彼が賢かったからだ。彼は僕を押し、叩き、誘っていた。それをすることによって、場面を作りあげていたのだ。場内のみんなが乱闘が始まるとわかった。ベンチのみんなもわかっていた。テレビのアナウンサーには、なぜ喧嘩を買ったのかと聞かれたが、その場面では買わざるを得なかった。リスクはもちろんあったが、乱闘は負けるより、断る方が恥ずかしい。これは借りだ。今度フィラデルフィアで、0対3で負けている場面があれば、彼は借りを返してくれるだろう。

 借りの事は、みんなはちゃんと覚えている。

 ホッケーファンの中でも乱闘が嫌いな人がいるのを知っている。近年NHLでは、脳震盪など頭の怪我をとても重大視している。しかし乱闘は不当な暴力ではない。もし乱闘が無くなれば、選手同士が汚い潰し合いが相次ぎ起こる事態になるだろう。もし、怪我をさせてしまえばサスペンションになるだろうが、4セット目の選手にとって、失うものは少ない。特にプレーオフでは、相手のスター選手を潰して怪我をさせれば、シリーズの結果もガラリと変わるだろう。彼らは乱闘をする必要がない。もしタフな男に復讐をされないのであれば、多くの選手がオープンアイスで怪我をすること間違いない。

 これは本当に確かか?僕もエンフォーサーとして、よく考える。相手のチームに僕を一秒で突き飛ばしてしまうような選手がいれば、試合中、その選手にチェックをすることを少し躊躇してしまう。僕も人間で、怪我をするのは怖い。だから乱闘は試合の序盤に多いのだと思う。みんなすぐ済ませてしまいたいのだ。1シフト目の乱闘は大好きだ。

 グローブを脱いだ瞬間に、他の事が見えなくなる。ファンの声援も聞こえない。審判の声も聞こえない。静寂だ。それもまだいい方だ。一番辛いのは、本当にタフな選手がいるチームと試合する前の日だ。一日中その事しか頭になく、感情という名のジェットコースターに乗る。ホッケーの試合そのものに関しては少しも考えられない。昼寝もまったく出来ない。

 これは決して悪い事ではない。僕はきちんと準備を整え、少し緊張しているとき、いい乱闘が出来る。もし乱闘に心配なく挑んでいる場合は、よく準備をしていないという証拠だ。戦うであろう相手選手の乱闘のビデオを観て、どんなパンチをするか、どんな戦略があるか、研究する。どっちの手を使うか、どんな時に利き手を変えるか、ユニフォームを掴むか。僕は183cm、88㎏しかない。許容誤差の範囲は狭い。取っ組み合いを出来なかったら、パンチしても、3インチ程届かない可能性がある。そして、顔を7針縫うことになる。


 非常にストレスが溜まりやすい仕事だが、僕は純粋に味方をかばう時の気持ちが好きだ。ルーキーだった時、これを仕事にすると決意した時から、記念品としている写真がある。初めてのエキシビジョンの試合のとき、エドモントンの巨人、J.S.ジャックスと乱闘をした事がある。彼に頭の横を何回か殴られ、顔と耳が血だらけになっている写真だ。なんでこんな写真が記念品かって?ネタとして、そして、この仕事を甘く見たらどうなるか、と自分に言い聞かせ続けるためだ。

 今年の夏、完璧とも言える座右の銘を目にした。通っているジムのトレーナーのオフィスにあった。



『勇気とは、恐怖の不備ではなく、その恐怖に対する行動のことだ。』

“Courage isn’t the lack of fear, but action in spite of it.”


 決して、努力は必ず報われる訳ではない、といった意味ではない。去年のプレーオフで、今までに感じたことが無い感情を覚えた。僕が前に属したチームであるレンジャーズとのシリーズ、0勝2敗だった時のこと。今でもみんなと仲が良かった。GK:ヘンリック・ランクヴィストは僕の親友の内の一人で、そのシリーズでは実に絶好調だった。僕は、どうやってペナルティー無しで彼に接触するか、彼をどうやって苛立たせるか、殴ったりしなきゃいけないのか、と考えた。だって、彼は僕の秘密をいくつも知っている。ヤバい事を幾つか暴露されるかもしれない。

 スタンレーカップを勝つために、どんなことでもする。氷上では友情など皆無だ。レンジャーズで僕に乱闘を仕掛ける人はいない。試合に出て、たくさんチェックをして、試合を荒し、誰かに乱闘を仕掛けさせなければいけない。1シフト目、ブルーライン上で青のユニフォームがパスをしたのを見て、力いっぱいチェックをした。彼は僕を見ていなかった。彼は立ち上がらなかった。遅いチェックだったのは自分でもわかった。わからなかったのは、それはデレック・ステファンだったこと。レンジャーズで仲がいい人の内の一人だ。彼は顎を骨折した。
 

 試合が終わってすぐ、ステフ(ステファン)に大丈夫かと、メールをした。少し感情的になった。人生色々ある。友達であることで、お互い敬意があり、怪我をさせたかった訳じゃなかったという事をわかっていれば幸いだと思った。彼は1ヵ月間、固体を口にすることが出来なかったが、あのタフな野郎はその試合にフェイスガードを付けて戻ってきた。ゲーム5では、2ゴールを決めた。
 
 そのシリーズはレンジャーズが勝ち、最後に列になってステフと握手したとき、僕たちはハグをして、和解をした。これがホッケーだ。ずっとこのままであって欲しい。




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